アラスカ、フェアバンクスで暮らす、親分とその子分達(キヨシ君:夫、サブ子:娘、栄作:息子、そして飼い犬 Maxine) の日常を綴ります。
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Posted by 親分
 
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戦争の傷跡
今日は精神科で働いてきた。受け持ちの一人だった、20代も前半の体育会系の二枚目な患者さんは、数年前にイラクから戻って以来、その後のPTSDで悩んでいた。イラクではヘリコプターから落下して腰も痛めたそうで、その若々しい健康的な見た目からは想像もつかないほど、彼は精神的にも肉体的にも相当弱っていた。イラクでの体験が毎晩フラッシュバックとして再現され、ぐっしょりと汗にぬれて何度も起きるため万年の睡眠不足。酒やドラッグに逃げるようになった彼は、それで軍の上司から厳しい監視下に置かれることになり、そのストレスに耐えられなくなってパニックアタックを繰り返したそうだ。彼はある日、上司の監視下から抜け出して個室に閉じこもり、自分の両腕をサバイバルナイフで滅多やたらと切りつけたのだ。

すでに半月近く入院していた彼は、入院当初よりはかなり落ち着いてきていて、明日には退院予定だという。軍の生活が染み付いているためか、朝も私が起こしにいかなくても自分で起き、ベッドを直し、シャワーを浴び、自ら申し出て私の監視下できちんと髭をそって朝食を取る。(精神科病棟ではナースの監視なしに刃物を使うことは許されない。)

深く切りつけられた両腕の内側のステープル(ホッチキスの針のようなもの)をすべて抜いても良い、という医師からの指示を受けて、私が彼の病室で一本一本ステープルを抜く間、彼はそれをまるで自分に今起こっていることとは思っていないような冷めた様子で眉一本動かさずに見つめながら、イラクでの出来事を淡々と語った。

感情に任せて訴えられるよりも、それにはもっとずっと背筋も凍るような怖さがあった。

イラクで何人亡くなりました、とか、イラクで亡くなったアメリカ兵は何人に上る、とか、ニュースや新聞では良く報道されるけれど、その数の大きさに、私は「背筋も凍るような怖さ」はあまり感じない。けれどこうして目の前にいる若々しい二枚目のにーちゃんが、ご飯をもりもり食べるにーちゃんが、窓の外の太陽の光に目を細めながらベッドの上にごろりと横になって本を読んだりしているにーちゃんが、毎晩うなされ、シーツまでぐっしょり濡らすぐらい汗をかいて思い出す光景とはいったいどんなものだったのか。

国の助けになりたい、という若者らしい正義感だったのか、もしくは軍に奉仕して大学進学の糧にするつもりだったのか。どんな理由にしろ、軍に入ったときの彼はこうした結末を予測しただろうか。

恋人との色恋沙汰で自殺未遂を図るような、若い女性患者の腕の浅い傷とは比べ物にならない彼の両腕の切り傷の深さが、その心の傷の深さをそのまま表しているような気がした。戦争の傷跡、それはこうして生身の人間にしっかりと刻まれている。彼のような若者が、いったい今のアメリカにどれぐらい居るというのだろう。私が Old Navy で洋服を買ったり、スタバでグリーンティーフラペチーノを飲んだり、娘と息子と水泳教室で奮闘しながらもどかしい思いをしたりしているこのアメリカで、戦争の傷を背負ったまま生きることよりもいっそ死を選びたい、という私よりも10才以上も年下の若者がいる。

それがこの国の怖さだと思う。自国が今「戦争をしている」という実感を得られずにすんでしまう世の中。私と同世代か、もしくは私よりもさらに若い世代のたくさんのアメリカ人が、今、地獄を生きている。
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Posted by 親分
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[ナースのお仕事
comment
目の前の日常生活とは乖離した現実。子供達と美味しいものを食べ、笑い、楽しみ、している今、戦争をし、多くの人々が怒りと、苦しみと、恐怖と、悲しみと、絶望の中でのた打ち回っている。

では今此処で実際にどう行動、考えていけばよいのか、日々模索していきたいです。親分さん、ありがとう。
2010/04/26 06:08 | | edit posted by マチカ
マチカさん>
つくづくおかしな国だなぁと思います。

戦争を美化して語られることが多いこの国で、こうして一人心や身体の傷を抱えてぼろぼろになっている若者がいる。そのことを伝えたかったのです。

戦争は自分達が止めようと思えばいつでも止められる、と言ったのはジョン・レノンとオノ・ヨーコだったでしょうか。でも、どこか遠い国で起こっているただの「お話」で済まされてしまっている間は、戦争はきっと終わらないでしょうね・・・。平和ボケとして育ってきている私にはショックな現実です。
2010/04/26 09:41 | | edit posted by 親分
そして毎日、軍への勧誘のためのTVゲームのイメージそのままのカッコいいCMがじゃんじゃか流れ、雑誌や新聞でも美談ばかりが取りざたされている。
アメリカ国内はもちろん、イラクやアフガニスタンのひとたちは更に地獄をみているのだろうね。
自分に出来ることはなにか、考えなければいけないとつくづく思います。
2010/04/28 08:11 | | edit posted by きゃらはん
きゃらはんさん>
そうなんだよね・・・。すっかりお国の為に戦う勇士、ってことになってるものね・・・。戦争とは、どんなに美化されても結局のところ「人殺し」なのだということを、純な愛国心溢れる若者には国は絶対に見せないからね。

2010/04/28 18:52 | | edit posted by 親分
私の友人はメイランドのネイビィホスピタルで戦争帰りのPSTDの専門のユニットで働いています。彼女も、緊張の中で過ごした日々から、こちらに帰っても日常生活に戻れない若者の姿を話してくれました。戦争が・・・なくなる時代がいつか来ることを信じて・・・
2010/04/28 20:51 | | edit posted by きすか
きすかさん>
PTSD専門ユニットかぁ・・・。そこで働くのも精神的にきつそうですねぇ・・・。こういう若者がたくさんいるのだということを、どうしてこの国はきちんと報道しないのでしょうか。戦争帰りのアメリカ兵こそ、国を挙げてサポートするというのが本当じゃないのでしょうか。VAはどうやって保障を逃れるかに必死だ、というのが現場で働く私の印象です。
2010/04/29 20:10 | | edit posted by 親分
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