アラスカ、フェアバンクスで暮らす、親分とその子分達(キヨシ君:夫、サブ子:娘、栄作:息子、そして飼い犬 Maxine) の日常を綴ります。
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Posted by 親分
 
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ビル・フラーさん
数日前、申し送りが終わり、自分の患者さんのお部屋をまわって血圧や脈を測っていた時のこと。さて、次は○号室の「William Fuller」さん、88歳か、とベッドに横たわった背の高い痩せた白髪のおじいさんに自己紹介をしました。「ウィリアムさんですか?私は今日のウィリアムさんの日勤担当ナースの○○○です。どうぞよろしく。」

彼は穏やかな声で、「ビルと呼んでください。」と言った後、日本語でゆっくりと「ニホンジンデスカ」と聞いてきました。その時になって初めて気がついたのです。彼はあの「ビル・フラー」さんだったと。

写真家の星野道夫さんの著書や映画「ガイアシンフォニー」に度々登場する彼。生前の星野さんの親しい友人で、「真冬のフェアバンクスでも素足にサンダル履きで自転車に乗るおじいさん」と言えば「あぁ、あの人か!」と思い出される方も多いことでしょう。

実は私も以前地元のコントラダンスの集まりで何度かビル・フラーさんをみかけたことはあったのです。「I'm not as old as I look」と書かれたTシャツを着てとても80代とは思えないステップを踏んでいたのを思い出します。でも病院で再会した彼は病気のせいかだいぶやつれて顔つきが変わっていたため、本人が喋り出すまで彼があの「ビル・フラー」さんだとは全然気付かなかったのです。

「ビル・フラーさんですか?私、あなたのことは星野さんの本や映画でよく知っています。いまだに自転車には裸足で乗ってるんですか?」と聞いた私に、彼は笑って「いや、最近はさすがに寒くなると靴下を履くようになったよ。」と答え、その後ぽつぽつと自分のことを語ってくれました。

60歳を過ぎてから自転車で日本縦断をし、日本語を真剣に勉強するようになったこと。一時は「漢字」の魅力にとりつかれて、自分の爪に小さく漢字を書き込み、暇を見つけては自分の爪を見つめて漢字を覚えた時代があったこと。自己流に学んだ音楽のこと。昔は留学生達に英語を教えていたということ。最近まで演劇をしていたということ。歳老いてからも地元の若者達としょっちゅうバレーボールをして楽しんだということ。88歳になった今も、子供達にボランティアで音楽を教えているということ。そしていまだに奥さんとふたりで「簡易シャワー(使う水は自分で汲んできてタンクに溜めなければならない)」が付いただけの水道の通っていない小さなキャビンに住んでいるということ。

私はそんな彼の人生話を聞きながら、「たしか彼は若かりし頃バークレー大学で何か研究していたという華々しい過去があったはず」と星野さんの本の中の一節を思い出しつつも、そんな過去よりもビルさんにとっては60を越えてから日本を冒険したことや、子供達に音楽を教えていることの方がきっと自分の人生の中ではもっと重要な位置を占めているのだろうな、ビルさんらしいな、と心の中で納得していました。

彼のベッドサイドテープルの上に乗せられたメモ書き。その日あったことや思いついたことなんかをその都度書きとめているようなのですが、その文章の横には漢字で「月」「火」「水」と曜日が綴られていました。私に「○○○、おすしについてくるジンジャーがあるでしょう。あれは日本語でなんと言ったかな?どうしても思い出せないんだ。」と真剣に聞いてくる彼を見ていると、私達の人生に「何かを始めるのにもう遅い」などということは本当は何もないんだな、と思わずにはいられませんでした。

星野道夫はその著書のなかで、ビル・フラーについてこう語っています。「世界が明日終わりになろうとも、私は今日リンゴの木を植える・・・ビルの存在は、人生を肯定してゆこうという意味をいつも僕に問いかけてくる。」

こういう素敵な出会いにあふれているからこそ、私はきっとこの地に根を這って生きていこうと決めたんだろうと思います。
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Posted by 親分
comment:8   trackback:0
[アラスカ
comment
立派な方ですね。こういう方がいるからまだ世界は終わらないと私は思いますよ。本当に。ビルさん早く元気になると良いですね。
2007/06/27 23:11 | | edit posted by Mr
素敵な出会いをしたんですね~。こっちまで励まされます!何かをするには遅い事はないんですよね~
こんな貴重な出会いは、忘れる事がないですよね!
2007/06/27 23:38 | | edit posted by メロン
素敵ですね。
ガイアシンフォニーで見ていたのでびっくりです。
最近、自信がなくて止まっていた事が多かったのですが、
この記事を拝見して、まだまだ浅い自分の人生でクヨクヨするのは早いよなぁ~と。なんだか活を入れられました。
2007/06/28 05:14 | | edit posted by Mai
私も活を入れられました、いろんな意味で。
そういう人生の大先輩との出会いって素晴らしいですね。
2007/06/28 08:56 | | edit posted by coco
醍醐味!
これだから、ナースは辞めやれない!こういう出会いって、ナースをしていなければ、自分の交友関係だけではなかなか難しいよね。そして、こういう貴重な出会いも忙しさに終われ、なんとなく日々業務をこなしているだけでは、気がつかないこともあったりして、、、。こういう出会いがあると、ナースをさせてもらっていることに感謝すらしたりするよね。こんな感覚はいつまでも大切にしたいなって思います。今回のこのエピソード、一番親分らしいトコが出てて、大好きです。
2007/06/28 22:11 | | edit posted by しんちゃん
親分さんの病院は、ナースがご自分で、バイタルチェックするんですか?
うちの病院では、CNAがほとんどするんで、ナースがするとこ見たことないんで、日本を思い出しますね。

それにしてもビルさん、素敵な方ですね。
2007/06/29 05:38 | | edit posted by salie
Mrさん>
本当に、この時世にビルさんのように生きている人もいるんだと思う、とこの世の中悪いものでもないなと思いますよね。

メロンさん>
私達、特に日本人は「もう歳だから」という言い訳であまりに多くのことを諦めすぎなんじゃないかとビルさんを見ていると思います。私達も88歳のビルさんに負けちゃいられない!(笑)

maiちゃん>
maiちゃんも見たのね、ガイアシンフォニー。昨日はビルさんの奥さんにも会ったよ。本当に素敵な御夫婦でした。ビルさんのような生き方をしている人をみると、本当に自分は甘っちょろいな、とつくづく実感します。とにかく挑戦、自分のやりたいことはとことんやってみる、結果がどうであれ、そういう生き方をしていればゆくゆくはビルさんのような面白い人生が送れる気がします。お互い、がんばろうね!

cocoさん>
だから内科病棟で働くのが好きなんです。他の科のナース達からは「うちの病院の内科病棟はまるでGeriatrics専門だ、Nursing Homeだ」なんて嫌がられてるんですが(笑)こんな素敵な御年配の方の人生に触れることが出来る機会って他にどこがありますか?以前も105歳(!)の素敵な患者さんに、「私はまだまだひよっこですよ。」と自己紹介されて仰天した思い出があります。

しんちゃん>
老人看護が好きなしんちゃんならわかってくれると思ったよ~。そうそう、だからこの仕事って辞められないんだよね。仕事で出会った人達に深く考えさせられたりすることって少なくないもの。
病衣を着ていると、ついつい「カワイイ病気のおじいちゃん、おばあちゃん」として見てしまいがちだけど、ちょっとじっくり話して見るとすごい過去の持ち主だったりするので、respectの態度だけは崩さないでいたいな~と思います。

Salieさん>
うちの病院は本当に恵まれていて、RNのRatioがすごく高いんです。ほとんどの病棟ではLPNはもう雇っていないし、CNAも他の病院と比べると少なく、RNが患者さんのケアを総合的に出来るような環境が出来ています。というわけで、CNAとTeamを組んで勤務をする時はCNAがバイタルやADLをやってくれますが、そうじゃない時はなんでも自分でやりますよ。
2007/06/29 07:52 | | edit posted by 親分
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2011/07/17 05:51 | | edit posted by
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